Trifling Note

Imagination means nothing without doing.

妄想力を刺戟する「書き出し小説」の世界

とある事情で、「好きな書籍を数冊買っていいぞ!」と、何某からありがたい権利を頂戴いたしまして、「いやいや、最近amazonで欲しい本大量買いしちゃったぞ。どうしよう」なんて思いながら、セレンディピティに期待しながら本屋に向かって買った本の1冊がこれ。

書き出し小説

 amazonの商品説明をそのまま引用すると、

書き出し小説とは、オリジナルの書き出しだけで成立した文学史上最も短く、また新しい文学スタイルである。読むのは一瞬。しかしその余韻は長く、深い。貴方のイマジネーションを容赦なく刺激する、書き出しの世界。

という内容の本でございます。 

この本を手にするまで知らなかったんですが、もともと、デイリーポータルZで行われていた「書き出し小説大賞」という企画に寄せられた作品を書籍化したものだそうです。

  • メールではじまった恋は最高裁で幕をとじた。
  • その日、少女はエイプリルフールの日だと知らずに告白した。その日、少年は エイプリルフールの日だと思って承諾した。その日、二人の物語は動き出した。
  • 恩田さんは身体を前のめりにして「そのバーは照明が薄暗いのかい?」と聞い てきた。三十五にして初デート。応援してあげたい。

のような、書き出しだけが延々と書かれているんですが、これがなかなか面白い。

思わず「ぷっ」と吹き出してしまうような書き出しの作品もあれば、「え、なにこれ。深い」「おい、待て待て!これどうなるんだ!?」と思わされるような書き出しまで、妄想力を刺戟される「小説の書き出し」の世界に、思わず引き込まれてしまいます。

完結した小説も、「文章だけ」で構成されているからこそ、読み手の想像力による補完が醍醐味なんだと思うんだけど、「書き出し小説」はさらに想像の余白を増やしたって感じですかね。思わず続きを妄想しちゃうという意味では、「読み手が作者になれる本」だと言えるんじゃないでしょうか。それこそリレー物語的な感じで。

ちなみに構成としては、特にお題のない「自由部門」と「猫」とか「ボーイズラブ」みたいなお題が設定された「規定部門」があるんだけど、個人的には規定部門が面白かったです。

というのも、続きを妄想させるっていう点では自由部門も規定部門も同じなんだけど、「おぉ、このテーマをそう表現するのか!」「そう引っ掛けたか!」みたいな、テーマに対しての表現の妙を味わえるという点で、楽しみ方が多いなぁと。

どうでもいいんだけど、僕は奇遇にも高校生の頃、日記に「登場人物紹介だけの小説」を書いたりしていたので、そんなことを思い出しながら、「目次だけの小説」とか、もっとミニマルな「タイトルだけの小説」とかも面白そうだなぁ、なんて思ったりもしました。

そんなわけで、僕の通勤時間をいつもよりちょっと楽しくしてくれる1冊でした。

空き時間で気軽に楽しめるので、オススメです!